- case
- 2020/03/31
先日、愛用のフライパンのテフロン加工が剥げてしまいました。上京してから使い倒していたもの、もう1年半近くの付き合いです。一人暮らしをはじめてから簡単な炒め物しかしていなかったせいでしょうか。目玉焼きを執拗に焦げ付かせるフライパンに四苦八苦しながら朝食を作り終えました。
はああ、もうお昼はカップラーメンでいいか……。
どうせ自分しか食べる人のいないごはん、正直、なんでもよく感じてしまいます。
寝ても覚めてもごはんの悩みは尽きません。明日の朝は、昼は、夜は何にしよう。ごはんごはんごはん…!
今回選んだお悩みは、誰しもが感じたことがあるであろう一人暮らし特有のごはんのお悩みです。
「明日のごはんを何食べようか毎回迷ってしまいます。ひとりなので、しっかり作るのが億劫に感じます。」
料理は楽しい呪い
ひとり暮らしをはじめて、一番悩むのがなんと言っても「食事」。
今までは、餃子!ハンバーグ!など食べたいもののリクエストだけを立派にこなし、母がせっせと丹精込めて作ってくれたごはんをさも当たり前のように食べて、ただただ「おいしいおいしい」と旨味を享受するだけの、まあそれは偉そうな立場でした。
ところが、ひとり暮らしを始めると状況は一変。
あんなに美味しく楽しかったはずのごはんがひどく億劫に感じてしまう。
はて、その理由を考えてみましょう。
……わかった、やっぱり料理は面倒くさいんですよね。
まず、お腹が空きます。そこから、自分が何を食べたいのかを考えて、そのメニューをどう作るのかを調べて、材料を切って、調味料を合わせて、煮て焼いてようやく食える。それを1日3回もくり返す……もう大変すぎて頭がクラクラしちゃいます。
そう、いわば料理とは「満腹」という幸福を得るために決断と実行を迅速に行わなければならない一大プロジェクト。特別な日の料理くらいならまだしも、毎日毎日食べるごはんを一から決めるループ……。これはいわば柔らかな「呪い」です。
「なぜ毎日違うものを食べなければならないのか」
「ごはんどうしようかな」ループを逃れるべく、相談したのは人生の拠りどころである私の母でした。実家に帰り、「ごはんが面倒くさい」とのたまう私に、ちょっと待ってて、と母が奥の部屋から持ってきたのは、一冊の本。稲垣えみ子著書『もうレシピ本はいらない』。新聞社でバリバリ働いていた筆者が毎日の料理をシンプルにしたことによって、生活が変わったというエッセイ本です。
さっそく開いてみると、飛び込んできたのは、強烈な字面。
「なぜ毎日違うものを食べなければならないのか」
さらに、エッセイは続きます。
「旅館の絢爛豪華な夕食が日ごとに違うのは『おいしすぎる』からだ。『おいしすぎる』ものは飽きる。現代人が『毎日違うものを食べたい』と思うのは、(中略)『おいしすぎるもの』を頑張って作り続けているからではないか」
「『ご飯何にしよう』という無限地獄から脱出せよ」
カーン……!頭を殴られたような衝撃が走りました。か、完全にノックアウト……。ご飯といえば毎日違うものを食べるのが、「当たり前」だった私には、新しい概念すぎました。そうか、がんばりすぎていたのか。よくよく考えてみれば、塩こしょうだけでも美味しさは十分に担保できる。別に様々な調味料をこねくり回した料理を毎回考えなくてもいいのかもしれない……。そう思った時、ちょっと心が楽になりました。
朝食を固定してみる
エッセイ本には3食を全て固定することが書かれていましたが、私にとって、文章に向かい続ける毎日の中で、「メニューを考えて料理を作る」ことは気分を切り替えることも孕んでいました。なので、まずはいつもバタバタしてしまう朝食だけを固定してみることに。
6つ切り食パンをグリルでトーストし、冷蔵庫の中の葉物を炒めて塩こしょうをふり、同じフライパンで目玉焼きを焼く。洗い物も少ない簡単なワンプレートです。起きてから朝食の完成までだいたい15分。うん、そこそこおいしい。毎日絶品でなくてもいいんだ、そこそこおいしいがあれば、生きていける。
買い物もメニューが決まっているので、無くなったら深く考えずに買い足せばいいし、何より毎晩の「明日何食べよう」からのクックパッドを流浪する時間がなくなり、考えることを少し減らせたのです。
相談者さんのお悩み、同じ一人暮らしの身としてよくわかります。もしかすると、相談者さんも、私と同様「おいしいものを作ろう」と思ってご飯のハードルが上がってしまっているのかもしれません。よかったら無理のない範囲で、ごはんを固定してみる、「そこそこおいしい」を目指してみる。これだけでも「ごはんに迷ってしまう」面倒から少しに楽になれると思います。
写真:飯本貴子
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