- odekake
- 2019/09/27
カリカリの生地に、甘いあんこ。小さいころに何よりも楽しみにしていたおやつは、母が出してくれる「たいやき」でした。
大人になった今でも、たいやき屋を見かけるとついつい立ち寄ってしまいます。
そんなたいやき屋の「元祖」と呼ばれるお店があると聞いて麻布十番の街に向かったのは、お天気のいいとある平日。
麻布十番駅からまっすぐ2分も歩けば到着するお店には、小さな子ども、スーツ姿の大人、着物を着た年配の方、平日の昼間でもひっきりなしにお客さんがやってきます。
幅広い世代のお客さんに100年以上愛されてきた老舗、「浪花家総本店(ナニワヤソウホンテン)」を訪れました。
目次
たいやき御三家で最長の歴史を誇る「浪花家総本店」
国民的なおやつのひとつ「たいやき」。
有名なたいやき屋さんってどこだろう? 調べてみると名前が挙がったのが、「御三家」と呼ばれる3店舗でした。
人形町にある「柳家」が1916年誕生、四ツ谷にある「わかば」が1958年に誕生。この御三家の中で最も早く誕生したお店が、1909年創業の「浪花家総本店」です。
東京で味わう天然もののたいやきの代名詞「浪花家総本店」
日本橋と九段下で明治時代に始まり、麻布十番に移ってから60年以上。「浪花家総本店」の店内を覗くと、今日も職人さんが丁寧にたいやきを焼いています。
くるくると回転させているのは、たいやきを一匹ずつ焼いていく「一丁焼き」の金型。何年も修行を積まないとおいしく焼くことができない伝統的な焼き方で、一匹ずつ焼かれたたいやきは「天然もの」と呼ばれます。一度に何匹も焼ける「養殖もの」と区別されているんです。
「たいやきを焼くことが、僕は好きですね」と聞かせてくれたのが、「浪花家総本店」で40年近く毎日同じようにたいやきを焼き続けている、4代目店主の神戸将守(かんべまさもり)さん。
神戸さん:「いつも同じことができるって、すごく楽しい。僕は好きです。
なにがおもしろいって、小さかった子がいつの間にか彼女を連れてきたり、おばあちゃんに手を引かれてきた女の子が自分の子どもを連れてきたりね。そういう人たちを、いつも同じ味で迎えることができるのが嬉しいです」
毎日違うつくり方の、毎日同じたいやき
それぞれの人生に寄り添ってきた、「浪花家総本店」のたいやき(税込180円)。
さっそくいただいてみると、皮のカリッとした食感とあんこのとろけるような柔らかさのハーモニーに、ひとくち目から思わず頰がゆるみます。
薄い皮から透けて見えるほどに、頭からしっぽまでぎっしり詰まったあんこの塩加減が絶妙。思わず何個でも食べられそう。
毎日同じように焼かれている、「浪花家総本店」のたいやき。このたいやきをつくるには、最低でも3年の修行が必要だと神戸さんは言います。
たいやきの生地に使われる小麦粉は、天候による湿気や収穫時期、袋の中の位置によって味が変わるため、日によって配合が異なるのだそう。
「浪花家総本店」の味を決めるあんこは、毎日150kg、たいやき約2000個分を8時間じっくり煮ています。
普通の小豆は煮えたら砂糖を入れて完成ですが、「浪花家総本店」ではそこから3時間煮ることで、小豆の皮を極限まで柔らかくしているのだとか。
息を吸って、吐いて。呼吸と同じ感覚でたいやきをつくれるようになるには、10年かかることも珍しくありません。
毎日「同じ」味のたいやきを届けるために、毎日「違う」方法で。
たいやきを手にするお客さんたちの物語を想像しながら、今日も「きちんと向き合ってつくっていく」ことを大切にしているのです。
少し冷まして「浪花家総本店」のあんこを味わう
たいやきといえば、できたてをパクリ! が鉄板だと思っていましたが、神戸さんは「冷めたときのおいしさもあるんじゃないかな」と教えてくれました。
神戸さん:「できたてよりも、少し冷めてからゆっくり食べるとあんこの味もよくわかると思うんだよね。持って帰ってトースターや魚焼き機で外側だけをちょっと焼くと、中は冷たくて皮がカリッとしておいしいよ」
じっくり炊かれているあんこの味をもっと楽しみたいから、自分へのおみやげに持ち帰り用も買って帰ることにしました。
2階のカフェでは、焼きそばとかき氷が人気
100年以上愛されてきた「浪花家総本店」の魅力は、たいやきだけではありません。ひそかな人気を集めている2階のカフェスペースでは、他のメニューにもファンが多いんです。
たいやきと並ぶ人気といっても過言ではないメニューが、キャベツと揚げ玉が入った焼きそば(税込500円)。
シンプルな味に惹かれて、するすると箸が進みます。ソースで濃さを変えられるのも魅力です。
神戸さん:「もともとここのたいやき屋は、労働者のための食堂から始まったんだよ。いろいろな料理を出すなかで一つのメニューが、たいやきだった。今でも焼きそばだけ買いに来る人もいるよ」
もう一つの看板メニューは、一年中食べられるかき氷。一番人気は、たいやきに使われているあんこがたっぷりのった宇治金時ミルク(税込900円)です。
かき氷で冷えたあんこは、たいやきのあんことは異なる味わいを楽しめます。あんこと練乳に加えて、甘党なら別添えのシロップをどうぞ。
もちろん、1階でつくられたたいやきをいただくこともできます。片手に持ちながら食べ歩きするのもいいけれど、お茶といっしょに座りながらゆっくりたいやきを食べるのもおすすめです。
「あたりまえの味」と出合い直せる麻布十番の街
麻布十番の店頭に立ち続けてきた神戸さんに、この街の魅力をうかがってみました。
神戸さん:「ここでしか食べられないものがたくさんある街だね。200年続くおそば屋さんがあり、有名な焼肉屋さんがあり。ちょっと立ち寄れるおせんべい屋さんや人形焼屋さん、うちのお店があって。
長く続いている“あたりまえの味”をあれこれ選べるのは楽しいよね」
老舗がいくつもある麻布十番は、看板に書かれた創業年に注目しながら、長く愛されてきた味を楽しむお散歩にもぴったり。
なかなか来ることがなかった麻布十番に、こんどは友だちと街歩きをしに来ようかな。
東京の顔「浪花家総本店」のたいやきは、いつでも、誰でも、いつまでも
「浪花家総本店」を訪れるお客さんは、アジアだけでなくアメリカやヨーロッパからも。日本に来たら必ず「浪花家総本店」でたいやきを食べる人もいるそうです。
誰にでもわけ隔てなく食べてもらえるのが、たいやきの一番の魅力なのかもしれません。
神戸さん:「うちのお店なら、180円あれば小学生から世界一のお金持ちまで買いに来られる。そこがたいやき屋の良さだと思うんだよね」
思い返せば、安価な値段で買うことができるたいやきはわたしの小さな味方でした。
部活帰り、家に着くまでお腹が空いてどうしても我慢できないときに小腹を満たしたり、手がかじかむような風の冷たい日にあつあつのたいやきで暖をとってみたり……。
ふらっと入ったたいやき屋さんで、焼き上がりを待ちながら店員さんとする何気ない世間話に、お腹だけじゃなくて心も満たされた日も。
「うちのたいやきが、誰かにおすそ分けしたいときに気軽に買えるお菓子であったら」と語ってくれた神戸さんのお話から、いつでも身近な存在でいてくれるたいやきのやさしさに少し近づけたような気がします。
たいやきを受け取って、なんだかほっとする一瞬。誰がいつ訪れてもいつも「同じ味」で迎えてくれる、「浪花家総本店」の日常。
これからはわたしの人生の物語にも、このたいやきが登場するんだろうな。
「浪花家総本店」と出合った記念に、せっかくだからあの人の分も買って帰ろうっと。
浪花家総本店(ナニワヤソウホンテン)
東京都港区麻布十番1-8-14
TEL:03-3583-4975
営業時間:
<月・水-日>10:00-19:00(但し店内飲食は11:00-19:00)
定休日:火(祝日の場合は翌日)・第3水
取材・執筆:佐倉 ひとみ
編集:菊池百合子
※この記事は、2019年11月までおでかけメディア「haletto(ハレット)」で掲載されていた内容を、公式に転載したものです。
※金額など掲載されている情報は記事公開時点のものです。変更されている場合がありますのでご利用の際は事前にご確認ください。
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