- odekake
- 2019/06/12
目次
豊かな自然と古都の風情が楽しめる鎌倉は、実は、全国のパン好きから注目を集める街でもあるんです。特に鎌倉駅周辺には、個性豊かなこだわりのパン屋さんが集まっています。
今回ご紹介する「鎌倉のパン屋さん」は、鎌倉駅東口からすぐ、小町通り入り口の手前にある「豊島屋 鎌倉駅前扉(トビラ)店」。「豊島屋」といえば、「鳩サブレー」で有名な和菓子屋さんです。
とっても気さくな広報の方に、鎌倉を代表する老舗和菓子店がパンをつくりはじめた意外な理由や、人気のパンについて伺いました。2階のイートインカフェと3階のパーラーについてもレポートします!
鎌倉散策のランチにも。「豊島屋」で鎌倉駅にもっとも近い「扉店」
行楽シーズンを迎えた鎌倉駅は、午前中からかなりの混雑。東口の改札から出た人々の多くが、小町通り入り口の赤い鳥居に吸い込まれていきます。
赤い鳥居に並ぶ位置にある石造りの建物が「豊島屋 鎌倉駅前扉店」。レトロな書体で「扉」とだけ書かれた看板の潔さが印象的です。
鎌倉の高校に通っていたわたしにとって、鳩サブレーと「豊島屋」は親近感のある存在。にも関わらず、「豊島屋」の店舗の中でも鎌倉駅にもっとも近い「扉店」に入店するのは初めてです。
ワクワクしながらガラス張りのドアをくぐります。店内は、入って左側が和菓子売り場、ガラスで仕切られた右側がパン売り場になっているようです。
パン・和菓子売り場、イートインカフェ、パーラーからなる「豊島屋 扉店」
「いらっしゃいませ。今日はよろしくお願いします」
焼き立てのパンが次々と並べられていくのをうっとりと眺めていたら、そう声を掛けられました。広報課長の宮井さんです。
宮井さん:「『豊島屋』のパンが買えるのは扉店だけ。2014年に扉店をリニューアルした際にパンづくりをスタートしました。同時に、2階にイートインカフェをオープン。3階の『パーラー扉』のメニューにも自家製パンを使ったものが加わり、ご好評をいただいています」
扉店と、3階「パーラー扉」の創業は1955年。宮井さんが新卒で「豊島屋」に入社した1988年に現在の建物に建て替えられました。建て替え、そしてリニューアルという二度の大きな節目に立ち会った宮井さんは、扉店の生き字引的存在です。
扉店に来たら食べてほしい! 「豊島屋」のいち押しパン
64年もの間、鎌倉駅前の同じ場所にお店を構え続けているということも驚きですが、そもそも、「豊島屋」本体の創業は明治時代中期の1894年。今年は、創業125周年のアニーバーサリーイヤーです。
「豊島屋」の歴史や、パンづくりという新たな挑戦をはじめた理由については後ほどじっくり伺うことにして、まず気になるのはやっぱりパン。
「扉店に来たら、これは食べてほしい!」
そんないち押しのパンを、宮井さんにピックアップしていただきました。
モチモチの求肥入り! かわいいキューブ型のあんぱん
ころんと四角いフォルムがかわいい「キューブあんぱん」は、ほとんどのお客さんが購入するという人気ナンバーワン商品。上面のオリジナル焼印もポイントです。
扉店のロゴをかたどった「扉」の焼印がついている方がこしあんぱん。鍵の焼印がついている方はつぶあんぱんです。どちらのあんこも、「豊島屋」の和菓子に使われているもの。
宮井さん:「一般的なあんぱんとの違いは形だけではありません。中にはあんこだけでなく、求肥も入っているんです。この求肥ももちろん、「豊島屋」の和菓子に使われています。『和菓子屋ならではのあんぱんが完成しました』と胸を張って言える自信作です」
今では、こしあん、つぶあんに加え「ほうじ茶あんキューブ」もレギュラー入り。月替わりの「今月のキューブあんぱん」を楽しみにしている常連さんも多いのだとか。
宮井さん:「6月のキューブあんぱんは『あんず』です。紫陽花の季節にぴったりの爽やかなパンですよ」
大のあんず好きのわたし、6月に鎌倉に訪れる理由ができました!
あの「鳩サブレー」と同じバターを使ったクロワッサン
パン好きからの注目度が特に高いのが、鳩サブレーに使用している「豊島屋」オリジナルバターをたっぷり使って焼き上げたクロワッサン。
宮井さん:「こちらは奇をてらわず、シンプルな『これぞクロワッサン』というものを目指しました。コーヒーや紅茶といっしょに、バターの豊かな風味を味わっていただきたいです」
「豊島屋」オリジナルのバターとあんこを同時に楽しめる「あんバター」もおすすめです。
パン好きの社長が発案。キューブ型の焼きそばパン
扉店のパン売り場はコンパクトながら、パンのラインナップはバラエティ豊か。惣菜パンには、パン好きだという現社長(なんと四代目!)のアイデアが反映された商品も多いのだそう。
宮井さん:「『焼そばキューブ』も社長の発案です。ある日とつぜん、『焼そばパンって具がこぼれやすくて食べづらくないか? うちのキューブ型パンの中に焼そばを入れられないかな?』なんて言い出しまして」
そんな経緯で生まれた「焼そばキューブ」。ほぼ同時に「ピザキューブ」も誕生。
宮井さん:「ちなみに、『海苔フランス』や『のり塩ラスク』も完全に社長の発案ですね。どちらもビールのおつまみにぴったりなんです」
小中学生にも人気。リーズナブルなポンデケージョ
お話を伺っている間も、扉店への客足は絶えることがありません。幅広い年代の観光客の中でも、ひときわ賑やかなのが小中学生のグループ。遠足や修学旅行でしょうか。
宮井さん:「せっかく鎌倉に来たのに、ファストフード店などで昼食を済ませてしまう子どもたちが多いみたいで。社長はずっとそれを残念に思っていました」
扉店のパンの中でも変わり種の「ポンデケージョ」は70円から80円。小学生でも気軽に買える価格設定です。
宮井さん:「おやつ代わりにひとつだけ、でもいいんです。鎌倉でしか食べられない『豊島屋のパン』を買って、2階のイートインカフェで食べる。子どもたちにそういう経験をしてもらえたらうれしいですね」
モチモチの食感のポンデケージョは、週替わりで数種類の味が用意されています。この日のラインナップは、たこ焼き風味の「たこぽん」と、ピザ風味の「ピザぽん」、さっぱり梅味の「梅ぽん」に加え、宮井さんいち押しの「みそ汁ぽん」も。
宮井さん:「みそ汁の味わいを再現するために、わかめと油揚げを生地に練り込みました。どんな味か気になるでしょ(笑)」
ハムやソーセージは、地元企業「鎌倉ハム」のもの
地元のパン屋さんを思い出すような、ハムやソーセージを使用したスタンダードな惣菜パンの種類も豊富。
扉店のパンに使われているハムやソーセージはすべて、地元の老舗企業「鎌倉ハム」のものです。
「鎌倉の人たちにおいしいパンを」。終戦直後からの思い
今や、全国各地のご当地土産としてもポピュラーなサブレーですが、その元祖は「豊島屋」の鳩サブレーです。鎌倉を代表する銘菓として不動の地位を誇る「鳩サブレー」の「豊島屋」が、自家製パンの製造・販売をはじめた背景にはどんな理由があるのでしょうか?
宮井さん:「実は、パンの製造は『豊島屋』にとって初めての経験ではありません。戦後の食糧難の時代、電気釜を持っていた『豊島屋』は、配給公団から『鎌倉市民に配給するパンをつくってほしい』という依頼を受けました。当時は、満足な材料も手に入らないうえに、和菓子づくりとパンづくりでは勝手が異なり、『豊島屋』が製造したパンは、おいしいとはとても言えない仕上がりだったんだそうです」
先代から、そのときの悔しい気持ちを聞かされていた社長が、2014年の扉店リニューアルを期に一念発起。「豊島屋」のパンには、「いつか、鎌倉の人たちにおいしいパンを提供したい」という先代の夢が込められているんですね。
イートインカフェにはドリンクも。パンに合う冷製スープもおすすめ
鎌倉と共に歩み続けてきた「豊島屋」の歴史に思いを馳せながら、いくつかパンを購入。どれもおいしそうで、つい買いすぎてしまいました……。
2階のイートインカフェで食べるのもいいけれど、今回は、3階の「パーラー扉」でのランチもお目当てのひとつ。パンは大事に持ち帰り、自宅でゆっくり食べようと思います。
宮井さんに案内され、エレベーターで2階へ。イートインカフェを見学させていただきます。
2階には厨房もあり、パンづくりの様子を少し覗くことができます。
レジにてドリンクの注文も可能。「ドリンクは、コーヒー類を中心にパンに合うものを取り揃えています」と説明してくれたのは、2階・3階フロア責任者の草間さん(写真左)。
草間さん:「暑くなるこれからの季節は、冷製スープもおすすめです」
3階パーラーで鎌倉ランチ。「創業当時そのままの味」が人気
昭和の雰囲気が残るパーラー。小物にも注目
階段のアーチや、踊り場のステンドグラスは1988年に建てられた当時のまま。3階「パーラー扉」の入り口には、昭和っぽい雰囲気が今も残っています。
窓際の席からは、鎌倉駅の三角屋根とロータリーが見えます。
宮井さん:「鎌倉の玄関口にある店舗だから、『扉』店と命名したと伝えられています。名付けたのは、鎌倉文士としても有名な作家の久保田万太郎先生。お得意さまであり先代と知り合いだったみたいですね」
メニュー表にも印字されている「扉」のロゴは創業当時からのもの。誰がデザインしたのかは、どこにも記録が残っていないのだとか。
コースターとおしぼりは持ち帰りたくなるキュートさ! おしぼりのカラーリングは季節ごとに変わると聞いて、コレクター心がうずきます。
ナポリタン風味の懐かしホットドッグで軽めのランチ
「創業当時のままの味」という文言に惹かれ、ホットドッグをオーダー。ふかふかの焼き立てパンに、パリッとした食感のソーセージが挟まっています。ソーセージの下には、ケチャップ味のソースが。口いっぱいに頬張ると、ほのかにガーリックの香りが鼻に抜けました。
草間さん:「ソースは、たまねぎとトマト、ガーリックをオリーブオイルで炒め、ケチャップで和えて仕上げています。甘めの味付けは、ナポリタンをイメージしているんですよ」
確かに、たまねぎにケチャップ、ソーセージと言えばナポリタン。どこか懐かしい味わいが後を引き、あっという間に平らげてしまいました。鎌倉観光の合間、小腹が空いたときにもぴったりな、気の利いた「軽食」でした!
他にはないレトロスイーツ「パンドラ」も気になる
次回来店時には、こちらも創業当時からのメニューだという「パンドラ」を頼んでみたいと思います。
宮井さん:「レトロなルックスの『パンドラ』は、スポンジケーキにチョコレートソースをたっぷりかけたシンプルなスイーツですが、これが結構なボリュームなんですよ(笑)。お友だちとシェアして食べている女性も多いです。ぜひまた、お腹を空かせて遊びに来てくださいね!」
自宅で楽しくパンランチ。話題のクロワッサンはやっぱり絶品
取材翌日のお昼どき、お腹が空いてきたところで、「豊島屋」の黄色い紙袋をガサゴソ。キューブあんぱんをカットしてみると、中にはあんこと求肥がぎっしり詰まっていました!
まずは、こしあんぱんをひと口。しっかりとした生地に、こしあんのなめらかな食感がよく合います。さらに求肥の食感が加わることで、和菓子に近い味わいが生まれているように感じました。
焼そばキューブの中にはうずらの卵も。これは嬉しいサプライズ。
クロワッサンは、たくさんのパン好きが絶賛するのも納得の味。サクッとした軽い食感に続いて、ジュワッと濃厚なバターの香りが広がります。食べ終わった瞬間に「もうひとつ買えば良かったな……」と考えてしまいました。
締めは、「みそ汁を再現した」というその味が気になって仕方なかった「みそ汁ぽん」。宮井さんの言っていた通り、わかめと油揚げが生地に練り込まれています。
個人的には、誰もが食べたことのある「家庭のみそ汁」を完璧に再現したパンだと感じました。唯一無二のこのおいしさを、多くの方に実際に味わってみてほしいと思います!
今度の週末、鎌倉パンめぐりのスタートは、ぜひ「豊島屋」の扉店から。今まで知らなかった、鎌倉の新たな魅力を発見しに行きませんか?
豊島屋 鎌倉駅前扉店
(トシマヤ カマクラエキマエトビラテン)
神奈川県鎌倉市小町1-6-20
TEL:0467-25-0505
営業時間:
[1階:売店] 7:00-19:00 (土日祝は9:00から)
[2階:カフェ] 7:00-17:30 (土日祝は9:00から)
定休日:火
https://www.hato.co.jp/hato/tobira.html
喫茶・軽食 パーラー扉(パーラートビラ)
神奈川県鎌倉市小町1-6-20 3階
TEL:0467-25-0505
営業時間:10:00-17:30
定休日:火
取材・執筆:菊地 飛鳥
※この記事は、2019年11月までおでかけメディア「haletto(ハレット)」で掲載されていた内容を、公式に転載したものです。
※金額など掲載されている情報は記事公開時点のものです。変更されている場合がありますのでご利用の際は事前にご確認ください。
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