- odekake
- 2018/12/14
お正月の食卓と言えば、おせちにお雑煮。どちらも、自分でつくったことはない。年が明けてすぐ、友だち数人とのささやかな新年会がわたしの部屋で開かれることになった。ホスト役として、新年のおもてなしに頭を悩ませているここ数日。
料理は持ち寄り制だから、張り切っておせちやお雑煮を用意する必要はないとして。せっかくのお正月なのに、紙皿というのもなんだか味気ない。ちょっと気の利いたうつわがあれば、お正月のおもてなしらしくなるのかも……。
そのとき、ふっと思い出したお店があった。
あれはそう、近所の根津を散歩していたときだった。窓ガラス越し、小さな空間に表情豊かなうつわが並んでいるのが見えて、いいな、と思ったのに通り過ぎてしまったあのお店。
谷中に引っ越してきたばかりの頃だったので、5年以上前になる。このところ根津はお店の入れ替わりが激しいと聞くし、以前と同じ場所にまだあるとは限らない。記憶を頼りに、根津駅に沿って走る不忍通りから一本入った細い路地へ。
古い木造住宅と、年季の入った定食屋さん、ラーメン屋さん。一方で、建ち並ぶ真新しいマンション。懐かしさと新しさが共存する不思議な住宅街に、「たそがれ堂」はあった。
かつて逃した一期一会のチャンスに、また巡り会えて胸が高鳴る。「いらっしゃいませ」とおだやかに迎えてくれた女性に、何年も前に通りがかったときから気になっていたんです、と話しかけてみた。
「オープンは2011年だから、もう8年目になりますね。こんなに長く続けられるなんて、わたしたちも驚いています」
たそがれ堂は、布バッグ作家のオーナーと、4人のうつわ作家が共同で運営するお店だ。自分たちの作品を中心に取り扱い、店番は交代制。この日に店番を担当していたのは、うつわ作家の大中原さん。
店内を見回してみると、布もの雑貨やマグカップ、お茶碗、小皿や豆皿のほかに、これはどうやって使うんだろう? と思うようなものも置いてある。
「あえて何も説明書きはつけていないんです。使い方は、お客様ご自身に決めてもらいたくて。豆皿は食事に使ってもいいですし、アクセサリー入れにもちょうどいいみたいです。ご飯茶碗も、茶道を習っている方に『お抹茶を点てるのにぴったりなのよ』と教えてもらったことがあります。さまざまな用途を見出された自分たちの作品が、誰かの日常に溶け込んでいるんだと思うと嬉しいですよ」
手づくりのうつわたちは、同じシリーズのものであってもかたちや色合いが違う一点物。
「直感で『これだ!』と選んだお気に入りのうつわをひとつ持っているだけでも食卓が豊かになると思うんです。スーパーで買ってきたお惣菜も、好きなお皿に載せればごちそうに見えてきませんか?」
今回は、お正月の新年会で下ろすうつわを探しに来ました。そう伝えると、「それは素敵ですね」と微笑む大中原さん。
「気になるものがあったら手にとってみてくださいね。重さだったり触り心地だったりがしっくりこないと、結局あまり使われずに仕舞われたままになってしまうみたいで。やっぱりうつわは、その人の手に馴染むかどうかが大切ですから」
じっくり時間をかけて吟味して、我が家の小さなテーブルにも合いそうな数枚の豆皿と、何を盛っても絵になりそうな深めの大皿を購入した。
「ありがとうございました。良いお年を」
また来ますね。良いお年を。今年、はじめて交わした挨拶に、いよいよ年の瀬を実感する。
年末年始は、今まで見過ごしていたことに改めて目を向けてみる良い機会。これを機に、お気に入りのお皿を少しずつ集めていくのもいいかもしれない。
毎日を共に過ごす実用品にこそ「こだわり」を。そんなちょっと大人な自分で、新年のおもてなしができたらいいな。
たそがれ堂
東京都文京区根津2-21-5
TEL:080-6746-8975
営業時間:11:00-16:30
定休日:日曜・月曜・木曜・第3土曜
http://tasogaredou.web.fc2.com/
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取材・編集:菊地 飛鳥
企画構成:haletto編集部
写真:川瀬 一絵
島根県出雲市出身。忘れっぽいことへの焦燥感から写真を撮り始め、些細な体感を収集するように撮影を続けている。
近所や訪れた先々で適当に散歩して道に迷うのが趣味。
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※この記事は、2019年11月までおでかけメディア「haletto(ハレット)」で掲載されていた内容を、公式に転載したものです。
※金額など掲載されている情報は記事公開時点のものです。変更されている場合がありますのでご利用の際は事前にご確認ください。
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