「本に出会う交差点」夫婦出版社が営む、海辺の蔵書室 ― 三浦市三崎「本と屯」 【Woman.CHINTAI】
 
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「本に出会う交差点」夫婦出版社が営む、海辺の蔵書室 ― 三浦市三崎「本と屯」

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ある週末、三宅編集長とわたしは京急の赤い電車に乗り込みました。向かう先は電車の終点、三崎口駅です。今日の目的地、蔵書室「本と屯(たむろ)」のミネシンゴ(以下、ミネさん)さんが車で迎えに来てくださいました。

ミネさんは夫婦で「アタシ社」という出版社を営んでいます。夫のミネさんは編集者、妻のかよこさんはデザイナー。家族という「最小単位のチーム」で本や雑誌を作っています。お二人は昨年末に神奈川県逗子市から三浦市三崎へ引越しました。

ミネさん:「せっかくだから、海沿いを通っていきますか」

車窓から見える海は、きらきらと水面が光っています。海岸には大根が干されていたり、散歩する人たちがいたり。反対側の道沿いには畑が広がっています。あの葉っぱは三浦大根でしょうか。しばらくすると小さな漁港がぽつぽつと見えてきました。

車内で流れてきたのは三崎の子どもたちを中心に結成されている「かもめ児童合唱団」の歌。三崎は「芋煮ロックフェスティバル」が開催されたり、ドラマや映画のロケ地になっていたり。有名な小説家も住んでいたりと、文化的にも注目されている場所なのだそうです。

海を眺めながら走っていくと、蔵書室「本と屯」に到着しました。

「本屋ではありません。出版社がやっている”図書館”のようなものです。どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません。」

「本と屯」の入り口には、そんな案内が。室内の本は販売こそしていないけれど、手にとってじっくり読むことができます。腰高の机には絵本や小説、壁の棚にはファッション誌のバックナンバーや写真集も並んでいます。机は地元の大工さんが廃材でつくってくれたもの。ストーブの湯気が包む室内には、本を眺める人、手に取る人。ときどき、外からちらりと覗く人。「屯」の名まえにぴったりの、自然と人が集まってくる場所のようです。

蔵書室の中で、ミネさんとかよこさんにお話を伺います。

「蔵書室」とは

編集部:「蔵書室って、どんな場所なのでしょうか」

三根かよこさん(以下、かよこさん):「ここは交差点みたいな、いろんな人が無目的に行き来する場所なんです。自然に本と出会える場所になれたらいいし、そうであるように本の質にはこだわっています」

編集部:「子どものときに読んだ本と再会できる場所でもありますよね。『はれときどきぶた』なんて、小学生の時にシリーズで全部読んだのが懐かしいです」

かよこさん:「懐かしい本を偶然見つけたお父さんが、子どもに『これお父さんも読んだんだよ』と話している姿を見て、うれしくなることもあります」

編集部:「はじめから蔵書室を開くつもりでいたのですか」

かよこさん:「結果的に、ですね。こんなに広い場所を借りられるとも思っていなかったから。本と屯の向かいには三浦市に 2 軒しかない新刊書店のひとつがあって、出版社と書店が一緒になって何かを生み出せるかもしれない。そんなイメージが湧いたんです」

三崎堂書店の外観

ミネさん:「この本たちも、しまっておくだけなら人に見られることもないし、僕らが毎日見るわけでもない。三浦市にも図書館はあるけど、あまり稼働していないと言われていたから、本に出会うきっかけになったらいいなと。実際に 2 時間くらい読んでいる中学生もいて、いい本があれば読むんだなって思いましたね」

アタシ社が三崎にやってきた理由

編集部:「どうして三崎の街に“蔵書室”を開いたのですか」

ミネさん:「逗子に 8 年住んでいて、自宅を事務所にしていました。家が手狭になってきたな、いい場所はないかなって探していました。イベントでご一緒した“みやがわベーグル”(近くの宮川漁港にあるベーグル屋さん)の岩崎さんにこのことを話したら、この街を案内してくれて。三崎は海がたくさん見えて、でもむちゃくちゃ田舎でもない。観光客もいる。そんな場所も街も人も気に入って、ここにしようと決めました」

かよこさん:「引越してくるより前に、人とのつながりが少しずつ生まれてきてもいました。住居費のコストの低さ、東京まで 70 分というアクセスの良さにも惹かれました。ただ、ここまで情が湧くとは思ってなかったかな」

ミネさん:「徐々にだよね。来た当時は今よりドライだった。今では逗子のころにはなかった地元愛みたいなものを感じていて。この辺で飲んでるおじさんとか、ケタ外れに元気な魚屋さんとか、ここに在る全てが愛おしいんですよね」

かよこさん:「『この街を盛り上げたい』という使命感を持って引越してきたわけじゃないんです。でもつながりができた今、20 年後になくなってしまう“消滅可能性都市”と呼ばれるこの街に対する思いみたいなものが芽生えてしまったんですよね」

街に佇む出版社だからできること

アタシ社の理念は「ひとりで世界は変わらないけれど、アタシがどう見るかで世界は変わるかもしれない」

かよこさん:「三崎は“消滅可能性都市”で、何年か後になくなってしまう街だという現状があります。でも、その現状を自分がどう捉えるかによって、アクションは変わってくると思うんです。いわゆる『人がいなくなる、都市がなくなる、それはやばい!』という考え方や言葉そのものを問う。私たちはそういう「問いかけ」からやっていけたらいいかなって」

ミネさん:「一人の人間という“点”にも街を変えることはできると信じています。点の力はすごく強い。個々の点をたくさん増やして、集合して、すごく大きなうねりを作れたらと思うんです」

かよこさん:「自分が、いい影響を生み出す“点”になれるかどうかは、自分たちがどう生きるかとイコールだから。この街にとって “いいこと”をこつこつ続けていきたいと思ってます。一発逆転の魔法はありませんから。」

三崎には、猫がたくさん住んでいます。漁師街だからでしょうか。この日もたくさんの猫に出会いました。

お話の途中で、かよこさんは三崎に住む自分たちを「街に住みついた、猫みたいなもの」と話していました。ひょんなことからこの街にたどり着いて、居心地がいいから定着した様子を猫になぞらえたのです。

「本と屯」は、猫のようにふらりとやってきた人を受け入れてくれる場所。

「“関係”案内所みたいな場所になれたらいいよね」とお二人はどちらからともなく口にしました。観光案内所のような、でも観光地だけではない、三崎に関係する人やコトを案内する場所。“点”を集める拠点として、その点をつなぐ交差点として、今日も「本と屯」は佇んでいます。

三崎蔵書室「本と屯」

神奈川県三浦市三崎 3-3-6
問い合わせ:mineshingo@atashisya.com
営業時間:不定休 ※Facebook をご確認ください。
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取材・執筆:ツチヤ トモイ

※この記事は、2019年11月までおでかけメディア「haletto(ハレット)」で掲載されていた内容を、公式に転載したものです。

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