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下町にある築40年のマンションが、かわいくって仕方ないんです(後編) ― 「トダビューハイツ」戸田江美

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2016年、24歳の若さで、荒川区東尾久にある築40年のマンション「トダビューハイツ」の大家となった戸田江美さん。

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お祖母さんの跡を継ぐというかたちで大家業をはじめた彼女ですが「もし大家をやっていなくても、尾久や荒川区の魅力を外に向けて発信することはしていたと思います」と語ります。

尾久銀座の街並み

商店街のカフェでの写真展が、すべてのきっかけに

戸田さん:「もともと発信することが好き。会社を退職して尾久に戻ってきたときから、Webデザインを通して荒川区について発信したいと考えていました。でも、地域の人たちと関わる機会がなかなかなくて。その頃に紹介してもらったのが、トダビューハイツから歩いてすぐの熊野前商店街にある『こひきや』です」

「こひきや」は、ご夫婦が営むカフェ。戸田さんがフォトグラファーでもあると知ったご夫婦は、彼女が撮影した商店街の写真を展示する会の開催を提案します。

戸田さん:「こひきやでの写真展がすべてのきっかけになりました。連日、たくさんの人が見にきてくれて、ご近所の素敵なお店の店長さんや、荒川区でさまざまな活動をしている人と何人も知り合えたんです。わたしがやりたいことを理解してくれる街の人たちとの出会いがなかったら、現在のようなトダビューハイツのサイトはつくれませんでした」

それまでに培ってきたクリエイターとしてのスキルと経験、そして何よりも「この街が好き」という熱意が込められたトダビューハイツのサイトは、すべての部屋が満室となった今も、多くの人を惹き付け続けています。

戸田さんのお話に笑顔で頷くのが、入居者の安谷屋さん。

安谷屋さん:「わたしがトダビューハイツを知ったのも、戸田さんがライターとして連載を持っているサイト『物件ファン』を見たから。戸田さんが発信者だったからこそ出会えたんですよね。そこからトダビューハイツのサイトを見にいって、ふすまとトイレの床を入居時に変えられると知り、いいなぁ、とワクワクしたのを覚えています」

戸田さん:「やっぱり古い物件だから、あちこちにチグハグなところがあるんです。窓ガラスがなぜか1枚だけ磨りガラスになっていたり、1枚だけタイルの柄が違ったり。だったら、部屋ごとにふすまの柄やトイレの床が違ってもいいかなぁって。そういう遊び心を大事にすることで、ほころびにも愛着を持ってくれたらと思っています」

とは言え、戸田さんは若い感性を持ったクリエイター。建物が持つ雰囲気は活かしつつ、トダビューハイツの外装に少しずつ手を加えています。そのこだわりはかなりのもの。

戸田さん:「各部屋の扉の横に付けるナンバープレートを探していたとき、祖母の代からお付き合いのある業者さんが持ってきてくれたカタログには、いかにも団地っぽいプラスチックのプレートしか載っていなくて。なので、結局自分で探して買ってきました。工事のときにすごく細かく指示することもあるので、年功序列の職人さんには『この小娘が』と思われてるかも(笑)。でも皆さん、なんだかんだ協力してくださるんですよね。感謝しています」

戸田さんのお祖母さんは、厳しくもあたたかい人柄で多くの入居者さんや業者さん、職人さんに今も慕われているのだそう。心遣いと思いやり、感謝の心を大切にしながら筋はきっちり通す。そういうお祖母さんの姿勢は、孫である戸田さんにも受け継がれています。

観光地にはならなくていい。ここは、暮らすための街

これからの尾久に対して「こんな風になってほしい」という希望はあるのでしょうか?

戸田さん:「うーん……。谷根千みたいに盛り上がってほしい、と思っていた時期もありましたけど、商店街の人たちと仲良くなってからは、このままでいてくれたらそれでいいと考えるようになりました。観光地にはならなくていい。ここは、あくまで暮らすための街。都会に比べると、すべての流れがゆっくりに感じられるんですよね。実際、街の人たちの歩くスピードも遅いですし。線路沿いに椅子を持ち出して都電を眺めているおじいちゃんみたいに、いつかはこの街でのんびり隠居したいです」

今後の活動についても聞いてみました。

戸田さん:「荒川区には、面白い活動をしている人たちがたくさんいます。昨年、『talk ARAKAWA』というトークイベントを立ち上げ、登壇もしたんですが、これまで交流する機会のなかった商業高校の先生や人生経験豊富な50代の方など、多彩な経歴を持つプレイヤーとの繋がりができました。一緒に何かやりませんか、という話もすでにいくつか出ているんですよ。興味を惹かれた活動にはどんどん積極的に参加していきたいですね。地域の魅力を発信する活動は、継続してこそ価値が生まれるものだと思うので!」

最後に尋ねたのは「未来のトダビューハイツはどうなっていると思いますか?」という質問。

戸田さん:「未来ですか……。そうですね、すぐ先の未来としては(笑)、101号室をもっと入居者さんに活用してもらえるよう工夫していきたいです。週末にコーヒーが1杯無料で飲めるイベントとか、気軽に立ち寄れるきっかけづくりをしたいですね。安谷屋さんはコミュニティデザインのお仕事をされているので、いろいろと相談に乗ってもらっています。祖母に聞いたんですが、1964年の東京オリンピックのときには、大勢のご近所さんが戸田家に集まってカラーテレビで試合観戦したんだそうです。だから……」

安谷屋さん:「あ! 2020年に、101号室でオリンピック観戦したら面白そうだね!」

皆さんは、自分の住処=居場所をどうやって選びますか? 今回の取材を通して印象に残ったのは、便利さや快適さよりも、そばにいる〈人〉で住む場所を決めるという考え方。

安谷屋さんのすぐそばには、大家さんである戸田さんが。そして戸田さんのすぐそばには、下町・尾久の素朴な人々がいます。

今まで、何を決め手に住む場所を選んできたかな。そんなことを考えながら東尾久三丁目駅に向かうわたしの横を、元気に駆け抜けていく下校途中の小学生たち。開け放した玄関からは、おじさんたちが「散歩かい?」と話し掛けてきます。

今度、住む場所に迷ったら、気になる街に足を運んでみよう。そこに暮らす〈誰か〉との小さな出会いが、人生をひょいと変えたりするのかもしれません。

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取材:ツチヤ トモイ 写真:土田 凌 編集:菊地 飛鳥 企画構成:haletto編集部

※この記事は、2019年11月までおでかけメディア「haletto(ハレット)」で掲載されていた内容を、公式に転載したものです。

※金額など掲載されている情報は記事公開時点のものです。変更されている場合がありますのでご利用の際は事前にご確認ください。

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