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下町にある築40年のマンションが、かわいくって仕方ないんです(前編) ― 「トダビューハイツ」戸田江美

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都内に残る数少ない路面電車のひとつとして知られる都電荒川線。楽しそうにおしゃべりする地域のお年寄りと一緒にトコトコ走る電車に揺られていると、すぐに目的地に辿り着きました。

降り立ったのは、東尾久三丁目駅。地下鉄千代田線の町屋駅にもほど近い駅ですが、せっかくこの地域に訪れるのなら、と都電を選択。

荒川区東尾久。ここに住む人々は、近隣の西尾久を含めた辺り一帯のことを、昔から変わらず「尾久(おぐ)」と呼ぶのだと言います。

住宅街を歩いて目指すのは、1978年に建てられた賃貸マンション「トダビューハイツ」。くねくねと曲がる道を進んでいると「あ、こんにちは!」と声を掛けられました。

戸田江美さんは、トダビューハイツの大家さん。年齢は27歳。「大家さん」と聞いて思い浮かべるイメージからはかなりかけ離れています。大家業と並行してデザイナーやライター、フォトグラファーとしても活躍する戸田さんのお話が聞きたくて、今回は尾久までやってきました。

「忘れ物しちゃって……101号室で待っててください」。そう言い残し、足早に去っていく戸田さん。101号室は戸田さんが所属する会社のオフィスで、イベント会場としても活用されているのだとか。

1階奥にある101号室の扉を開くと、入居者の安谷屋(あだにや)さんが出迎えてくれました。安谷屋さんがトダビューハイツに住むようになったのは昨年の3月。お仕事での出張が多いので、まだ尾久周辺は開拓しきれていないのだそう。

安谷屋さんとお話していると「お待たせしましたー」と、戸田さんの明るい声がしました。

便利さでもない、日当たりでもない。〈人〉で住む場所を選ぶ

トダビューハイツは今年で築40年。もともとはずっと、戸田さんのお祖母さんが大家を務めていました。住む場所としては「古い」というだけで敬遠されてしまいそうですが、現在は満室。しかも、すでに何人もの人が空室が出るのを待っていると言うから驚きです。

戸田さん:「わたしが祖母の跡を継いだのが2年前。当時は3部屋の空室がありました。そのうちの1部屋がここ(101号室)ですね。あと2部屋に入居してくれた安谷屋さんも、もうひとりの方も、トダビューハイツを本当に気に入って住んでくださっているのでありがたいです」

デザイナー、そしてライターでもある戸田さんが自ら手掛けるトダビューハイツのサイトには、読みごたえのあるコンテンツがたくさん。新しい物件にはないトダビューハイツならではの魅力や、尾久という下町での暮らしの魅力を発信しながら「日記」も頻繁に更新されています。

入居について問い合わせる人の中には、トダビューハイツの個性や街に惹かれたという人のほか、大家さんである戸田さん自身に惹かれたという人も多いそうです。実は、安谷屋さんもそのひとり。

安谷屋さん:「仕事の関係で引っ越さなければならなくなったんですが、いろいろな条件の物件を見ているうちに、何をポイントに選べばいいのか分からなくなってしまって。そんなときに知ったのがトダビューハイツ。サイトがあって、そこから大家さんに直接連絡できるというのが新鮮でしたね。どんな物件にも良い面と悪い面があるし、それなら、駅チカとか日当たりとかの条件じゃなく〈人〉で物件を選ぼうと決めました」

荒川区という地域への馴染みはほとんどなかった安谷屋さん。「入居した日に戸田さんがメールをくれて、おすすめのお店を教えてくれたのもうれしかったな」と思い出を語ると、戸田さんも顔をほころばせます。

築40年のマンションなんて、単純にダサいと思っていた

戸田さんは、どういう経緯で大家を継ぐことになったのでしょうか?

戸田さん:「祖母から『大家としての運営業務を継がないか?』と最初に聞かれたのは大学生のとき。『やりたくない!』と断りました(笑)。当時わたしは美大生で、おしゃれな街にあるかっこいいデザイン会社に勤めたかったんですよ。築40年のマンションなんて古民家みたいな味があるわけでもないし、単純にダサいなと思っちゃって。だから、『運営は管理会社にお願いして』と伝えました」

美大卒業後、戸田さんは就職し、荒川区を出てはじめての1人暮らしをはじめます。

戸田さん:「あまり深く考えずに住む部屋を決めてしまったので、とにかく居心地が悪くて……。隣の部屋に誰が住んでいるかも知らないし、顔を合わせても挨拶もしない。生まれてからずっと、顔見知りだらけの尾久に住んでいたので、そもそもそういう環境が自分には合っていないんだと気付きました。わたしは地元が大好きなんだと改めて実感できたのは、この経験があったからだと思います」

1年後、お祖母さんの体調が悪化し、戸田さんは退職。尾久に戻り、フリーランスで活動していくことを決めます。この時点では、まだ大家を継ぐ気はなく……。

戸田さん:「フリーランスとしてのお仕事も増えてきた頃、青木純さんという方を取材したんです。青木さんは、日本初の壁紙が無料で選べるカスタマイズ賃貸の大家さん。お話を聞いていたら、大家という仕事がどんどん魅力的に思えてきて。その日に帰宅してすぐ『継がせてください』とお願いしました。急にですから、びっくりしていましたね」

驚きの決断力ですが、そのときは「やってみてダメならすぐやめればいい」という軽い気持ちでした。

戸田さん:「美大生時代にノコギリで木材を切ったこともあるので、DIYならわたしにもできるでしょ……なんて思い、部屋にいろいろ手を出してみたりもしました。これがもう、ぜんぜんできなくって! ふすまがとんでもないことになって、慌てて泣きついた職人さんに『江美ちゃん、なにこれ!』って怒られながら直してもらいました(笑)」

「ダメならやめればいい」からスタートし、早2年。今では「トダビューハイツがかわいくって仕方ない」のだと言います。

戸田さん:「大家になってから気付いたんですが、長いこと人が入っていない部屋は空気が悪くなっていくんです。夏場で室温が高くなっていたとしても、何となく冷え切った感じがすると言うか。だから、3つの空室にはこまめに足を運ぶようにしていました。掃除をしたり、パソコンを持ち込んで仕事したりしているうちに『どんな人が入居してくれるのかなぁ』って、部屋に話しかけるようになったんですよね。あんなにダサいと思っていたのに、良い部屋だなぁって自然と感じられるようになって」

安谷屋さん:「その心境の変化がなかったら、きっとわたしはトダビューハイツに住んでいなかったな。戸田さんが『この部屋、おすすめですよ』って心から思えていないような部屋なら、わたしも魅力を感じなかったはずだから」

背が高い安谷屋さんには、トダビューハイツのキッチンは少し低いそう。でも、そんな不便さもここにしかない「味」。

安谷屋さん:「そう思わせてくれるトダビューハイツ、そして戸田さんに出会えて本当によかったです」

後編では、尾久、そして荒川区の魅力を発信し続ける戸田さんの想いや、協力してくれる地域の人々とのエピソードを紹介。クリエイターとしての活動と大家としての活動、このふたつが生み出す相乗効果は、戸田さんの生き方や考え方にどんな影響をもたらしたのでしょうか?

下町にある築40年のマンションが、かわいくって仕方ないんです(後編) ― 「トダビューハイツ」戸田江美

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取材:ツチヤ トモイ 写真:土田 凌 編集:菊地 飛鳥 企画構成:haletto編集部

※この記事は、2019年11月までおでかけメディア「haletto(ハレット)」で掲載されていた内容を、公式に転載したものです。

※金額など掲載されている情報は記事公開時点のものです。変更されている場合がありますのでご利用の際は事前にご確認ください。

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