【爽快、東京ハイク】はじめて山に登る ― 大楠山「東京近郊ミニハイク」 【Woman.CHINTAI】
 
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【爽快、東京ハイク】はじめて山に登る ― 大楠山「東京近郊ミニハイク」

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わたしの登山の記憶は、確か小学校5年生の頃。もちろん、東京に出てきてから高尾山に行ったことはあります。ただしビアガーデン。30歳になって、本格的な登山の経験はほとんどありません。いつか登りたいなと思っても、なかなか重い腰を上げられず、装備がない、どこに登ったらいいのか分からない、ひとりでいきたくない、と敬遠し続けていたような気がします。

でも、一冊の本を知って、ようやく行ってみようと気分になりました。それが、「東京近郊ミニハイク(小学館・若菜 晃子・2015年)」

東京近郊ミニハイク

その本に出会ったのは、今から一年ほど前。神保町の本のイベント会場、一台の移動式本屋の中でした。表紙はすっきりしたイラストでかわいらしく、タイトルには「東京近郊ミニハイク」と書かれています。表紙をめくると、「はじめに」の欄にこう書かれていました。

“山に行ってみたいな。そう思ったら、山があなたを呼んでいる証拠。この本は、誰でもいつでも気軽に登れる、山あるきのガイドブックです”

わたしは、あ、自分のためにあるような本だ! と興奮しました。そして、この本の著者は、わたしのような登山を敬遠しがちな人に、ぜひ山を体験してほしいと思ってこの本を書いているんじゃないかと強く思ったのです。

本の中身は、「スニーカー山」「遠くのすてき山」などまったく知らない人でも興味を引くような分類で、20を超える東京近郊の山が紹介されています。それぞれ山の紹介ページには、都内からの電車での行き方、登山に要する時間や、登山口から下山口までの経路などが掲載されています。

車がない、都内に住んでいる山初心者のわたしでも、山に行けるかも! と思えるようでした。読み進めるうちに、この本の著者の若菜晃子さんにいつか会ってみたいと思い、この度の特集で一緒に山に登っていただけないかと相談。なんと若菜さんは引き受けてくれたのです。

初めて若菜さんにお会いしたのは、代々木上原の小さなカフェです。そこに現れた若菜さんは、とても小柄。山のお話をお聞きしながら、「東京近郊ミニハイク」の旧版(昭文社)を見せてくれました。地図や登山道に細かな赤い修正が入っています。

わたしは山に登った経験がほとんどないので、正直とても不安。若菜さんのような方と一緒に山を登って大丈夫か、登るスピードに合わせられるのか、途中で足をくじいたりしないだろうか、不安がたくさん浮かんできます。

若菜さん:「どんなに初心者でも、もうだめだ、ってそこから立ち上がれなくなったりしたことは今まで一度も経験がないから大丈夫。登る山さえちゃんと考えればね。」

そして、

若菜さん:「とにかく、前日はよく食べ、よく眠ること。睡眠はとにかく大事。あと、当日は帽子も忘れないでね。夏の山は涼しいと思われがちだけれど、初心者向けの低山はそんなことはなく、普通に暑いので」とアドバイス。

そこから登る目標の山についてのメールのやり取りをして、ああでもない、こうでもない、とわたしの意見が二転三転しても、眺望がいいならここの山、山頂で山ご飯も食べたいならここの山、と、若菜さんは的確に答えてくれました。そして、いったんは箱根にある、明星ヶ岳に登ることを決めました。

最初の登山予定当日は朝5時に起きて準備。しかしあいにくの曇り。現地に行けば晴れるかもしれない、と安易に思っていたわたしでしたが、若菜さんは、

「山の天気は変わりやすく、気温もぐっと冷え込むことがあります。現時点で地上は曇りですし、天候は悪化する傾向なので、初めての山登りには厳しいかもしれない。今日はやめにしましょう。」

雰囲気としては、そんなに天候は悪くないように見えるけれど、何度も経験されている若菜さんが忠告してくれました。山に登るということはなんと難しくて、繊細なのだと学びます。

仕切りなおして別日。山はもう少し気軽に登れる、三浦半島の大楠山に変更しました。前日から当日の朝方まで雨が降っていたこともあって、集合時間は少し遅めの11時に変更。登山口までは、JR逗子駅から京急バスで30分ほどです。

JR逗子駅

バスの中で、若菜さんと山の話をします。「山と溪谷社」で数々の山雑誌を手がけた後、フリーランスで山や旅に関連する本を編集されています。

若菜さん:「登山についてちゃんと学んだのは、「山と溪谷社」に入社してから。初めはなんにも分からなかったので、ゼロから先輩方に教えてもらいました。学生の頃は、山の知識もなく気軽に山に行って、下山中に日が暮れてしまって、真っ暗闇の中を必死で歩いたこともあるんですよ。」

かつての山の失敗談を、ぺろっと舌を出して、お茶目に笑って教えてくれました。怖い思いや不安などの、初心者の気持ちが分かるからこそ、山に対する説得力があります。

前田橋付近の住宅街

「前田橋」というバス停で降りてから、登山口までは約15分程度。住宅街の中にひょっこり川沿いの遊歩道が現れました。

大楠山

前田川遊歩道

いざ、登山スタートです。まず、小川に沿って進んで行きます。大きな石が川の上にあり、このあたりは軽やかな気持ちで進んで行けます。瑞々しい小川の音、木立の中で聞こえる鳥の声。なんと都内から一時間半です。午前中まで降っていた雨で少し滑りやすくなっている石の上を、若菜さんはひょいひょい、と進みます。

前田川遊歩道

前田川遊歩道

前田川遊歩道

前田川遊歩道

小川沿いの道を抜けると、登山口に出て、緑生い茂る森の中へ。ここまではほとんどお散歩の延長のような気持ちで歩いてきたのですが、気を引き締め直します。でも、すでに汗がだらだらと流れていたので、手ぬぐいをしっかり首に巻き直しました。

大楠山ハイキングコース

一段一段踏みしめて歩きます。5分ほど登ってはなだらかに、登ってはなだらかに、を繰り返して標高を感じます。しっかり足元を見ながら進みます。途中木の根がむき出しになっている箇所があると、

若菜さん:「木の根っこの上が滑りやすいから気をつけてね」

と注意! ようやくある程度なだらかになった地点で顔を上げると、一面緑色の景色が広がります。そして、その緑の間から少しだけ顔を出す青空に、ああ、この景色美しいなぁ、とほっと一息ついて、水を一口。またゆっくり、ゆっくり登り始めます。

大楠山ハイキングコース

大楠山ハイキングコース

登る途中、ぎゃっぎゃっ! と聞き慣れない鳴き声が。

若菜さん:「今のは多分、タイワンリスじゃないかなぁ。たまにあの上の枝から枝に、タタタって走っていく様子も見られますよ。」

普段の生活の中では動物に触れ合う機会がないので、今日の登山中にリスに会いたいと気分が盛り上がります。

キノコ

リュックの中に4本あった水の1本目を飲みほしてしまい、2本目にさしかかろうとしていたところで、頂上のような場所にたどり着きました。灯台を思わせる白い建物、「大楠山レーダー雨量観測所」に到着です。

大楠山ハイキングコース

大楠山ハイキングコースからみえる灯台

せっかくだから、上ってみましょう、と若菜さん。雨量観測所の展望台からは360度のパノラマ風景が広がっていました。南は三浦半島の先端、東側には東京湾と房総半島。雲がない日には伊豆半島や富士山まで見渡せるそうです。

大楠山からの眺望

すっかり頂上に来たつもりになっていたわたしでしたが、若菜さんから衝撃の一言。

若菜さん:「あの先に見える建物見える?あそこが頂上ですね。あと少しですよ!」

なんと。ちょっと、と言ってもだいぶ先です! しかしここで引き下がるわけにはいきません。若菜さんの、大丈夫、遠くに見えても意外と近いから、という言葉を信じて先を急ぎます。空腹はまったく忘れていましたが、頂上だと勘違いし、展望台に来たらなんだか急におなかが空いてきました。あと少しです。

「頂上まであと0.5km」の道標を見つけ、もうそろそろだ、と安心しきったわたしに、最後の壁が。足がなかなか上がりません。少し段が高くなった階段を一段一段登って行きます。あと少し、あと少し、と念仏のように心の中で唱えます。

ようやく頂上に到着。きょうは、「山の日」の翌日ということもあって混雑を想像していましたが、山頂には二、三組の登山者がいるだけでした。これなら、落ち着いて過ごせそうです。芝生が広がり、地上の風景を見下ろせます。ここまでは2時間もかかっていませんが、大きな達成感で一杯です。

大楠山

大楠山、山頂

大楠山山頂からの眺望

待ちに待った昼食は、若菜さんに教えてもらった、各自持ち寄ったパンやチーズやフルーツ。若菜さんが手際よくコーヒーを淹れてくれました。シンプルで簡単な山ごはんですが、なにやら、まるでカフェにいるかのような気分です。

大楠山で淹れる野外コーヒー

大楠山での山ごはん

実は、わたしは荷物をできるだけ軽くしなさい、と事前に教えてもらっていたのですが、結果、食べきれないほど余分な食料を持ってきてしまいました。反省です。

若菜さんに、次に登る山と、登る際のポイントを聞きました。

若菜さん:「15時までには下山できるように計画すること。あと、初心者の人は標高を気にしがちだけど、標高よりもまず歩行時間をチェックした方がいいですね。標高が一見高くても、なだらかな道がずっと続いているだけの山もあるし、標高が低くても険しい道の山もあります。険しいところは距離が短くても時間がかかりますから、自分の力量やペースがわかるまでは、まずコースタイムの長短を目安にするといいと思います。」

さて、昼食を終えて時刻は14時近く。いよいよ下山です。あとは下るだけだから余裕だろう、とあぐらをかいていたわたし。しかし大変なのはここからでした。

大楠山ハイキングコース

高めの段差をいくつも降りていると、登りで疲れた足に響きます。雨のせいでぬかるんだ山道を滑らないよう、横に生えている木にしがみつきながら、慎重に、でも大胆に降りていきます。すると、

若菜さん:「なるべく、足の裏からドスンドスン降りるのではなく、ひざのバネを使って降りたほうがいいですよ。そうすると明日、体に疲労が残らないから」

と言って、すいすいと若菜さんは降りていきます。

大楠山ハイキングコース

下山時間としては約2時間弱。道が急だったこともあり、体感時間としてはもっと短かったような気がしますが体力的には限界です。

大楠山ハイキングコース

大楠山ハイキングコース

この日、大楠山を南側から登ったわたしたちは頂上を越えて、北側へと抜けました。振り返ると、さっきまであの上にいたのだなぁと、とても感慨深い。バス停までの道のりのなか、若菜さんがリュックの中から白いアルミの水筒で水を一口。若菜さんがこの水筒を出したのは登りの休憩時と昼食の時だけ。わたしはペットボトル4本とも飲み干してしまいました。

この日、若菜さんの印象的な言葉が頭に残りました。

若菜さん:「わたしは、実際山に登る前に、Webの山行記などはほとんど見ないですね」

三宅:「なぜですか? 行った気になってしまうから?」

若菜さん:「それもあるけど、肝心なところがわからなくて、そこが見たいんじゃないんだよわたしは~! とかなんだかイライラしちゃうからかな(笑)。だから、地形図があれば十分。等高線は嘘をつかないし、山は自分の足で登って自分の目で見て感じるのがいちばんだから」

涼しい風を感じて、心地よい疲れと達成感で胸が一杯になったわたしの「東京近郊ミニハイク」。年内にまた山に登りたいと強く思った夏の一日でした。

大楠山頂上にて、若菜晃子さんと三宅

東京近郊ミニハイク 〔BE-PAL版〕

編集・文:若菜晃子
出版:株式会社小学館

大楠山(三浦半島・神奈川県)

標高:241メートル
アクセス:JR湘南新宿ライン「逗子駅」降車後、京浜急行バスにて約27分の「前田橋バス停」にて下車
山頂までの所要時間:約1時間10分
下山の所要時間:約1時間20分

取材協力・撮影:竹川 春菜

※この記事は、2019年11月までおでかけメディア「haletto(ハレット)」で掲載されていた内容を、公式に転載したものです。

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